MONOZUKI’s blog

STAP細胞にかかわる特許請求の範囲を読む

【請求項2】

 多能性細胞が外来遺伝子、転写物、タンパク質、核成分もしくは細胞質の導入なしに、 または細胞融合なしに生成される、請求項1記載の方法。

The method according to claim 1, wherein the pluripotent cell is generated without introduction of an exogenous gene, a transcript, a protein, a nuclear component or cytoplasm, or without cell fusion.

 

>>外来遺伝子、転写物、タンパク質、核成分もしくは細胞質の導入、または、細胞融合による、多能性細胞の生成方法は周知技術であり、細胞を敢えてストレスに晒す必要もないので当然に除外される。

 

2a) 明細書段落 【0020】

詳細な説明

 本明細書に記載の技術の局面は、細胞からの多能性細胞の産生または生成に関する。本明細書に記載の技術の局面は、外来遺伝子、転写物、タンパク質、核成分もしくは細胞質を細胞に導入する必要なしに、または細胞融合の必要なしに、ストレスが細胞からの多能 性幹細胞の産生を誘導できるという本発明者らの知見に基づく。いくつかの実施態様にお いて、ストレスは、細胞における細胞質および/またはミトコンドリアの量の低下を誘導 し;脱分化プロセスを惹起し、そして多能性細胞を生じる。いくつかの実施態様において 、ストレスは、例えば、ストレスに曝露された細胞の少なくとも10%において、細胞膜 の破壊を引き起こす。これらの多能性細胞は、3つの胚葉の各々に分化する能力(インビ トロおよび/またはインビボ)、インビボでのテラトーマ様細胞塊の生成、および生存胚 および/またはキメラマウスを生成する能力の1つ以上によって特徴付けられる。

 

 [0044] Aspects of the technology described herein relate to the production or generation of pluripotent cells from cells. The aspects of the technology described herein are based upon the inventors' discovery that stress can induce the production of pluripotent stem cells from cells without the need to introduce an exogenous gene, a transcript, a protein, a nuclear component or cytoplasm to the cell, or without the need of cell fusion. In some embodiments, the stress induces a reduction in the amount of cytoplasm and/or mitochondria in a cell; triggering a dedifferentiation process and resulting in pluripotent cells. In some embodiments, the stress causes a disruption of the cell membrane, e.g. in at least 10% of the cells exposed to the stress. These pluripotent cells are characterized by one or more of, the ability to differentiate into each of the three germ layers (in vitro and/or in vivo), the generation of teratoma-like cell masses in vivo, and the ability to generate viable embryos and/or chimeric mice.

 

>>発明者らの知見が正しいか否かは、「外来遺伝子、転写物、タンパク質、核成分もしくは細胞質を細胞に導入必要なしに、または細胞融合の必要なしに」という前提事項にかかっている。

 

>>平成29年9月7日付け手続補正書で出願人は、

 

【請求項2】  細胞塊が外来遺伝子、転写物、タンパク質、核成分もしくは細胞質の導入なしに、または細胞融合なしに生成される、請求項1記載の方法。

と補正した。

 

>>平成29年9月7日付け意見書で出願人は、

 

 「また、本件出願人は、旧請求項2及び旧請求項51を補正しました(新請求項2及び1 9)。具体的には、「多能性細胞」との文言を「細胞塊」へと変更する補正を行いました 。本補正は、例えば、本願明細書の段落0019の図16の説明部分、[0191]~[ 0193]、図16等の記載に基づきます。或いは、本願明細書においては、「細胞塊」 は「球状コロニー」又は「動物カルス」とも称されており、当該別称での根拠記載は、例えば[0149]等にも見いだされます。

としている。

 

 

明細書段落【0149】

例えば、CD45陽性リンパ球を強い化学的ストレスを提供するために低pH溶液に曝露した。曝露の3日間以内に、GFP発現細胞が観察され、そして5日間以内に、GFP発現細胞から構成される球状コロニーが観察された。このようにして生成された細胞を本実施例においてストレス変化幹細胞(Stress Altered Stem Cell)(SASCまたはSAC)という。SACを若返り幹細胞(Rejuvenated Stem Cell)(RSC)または動物カルス細胞(animal callus cell)(ACC)ということもできる。SACは、胚性幹細胞に通常伴ういくつかのマーカーを発現した。SACはES細胞と等価な分化能力を示し、キメラマウスの生成に寄与し、そして4N胚盤胞中に注入したときに胎児全体を生成する能力を有した。このようにして生成された細胞は、最初に、細胞ベースの損傷防御機構の誘導に通常伴う低いミトコンドリア活性および他の状態を示した。それらは、次いで、Oct4およびNanog遺伝子プロモーターの脱メチル化を示した。ストレス変化細胞のリプログラミングは間葉-上皮移行を介して誘導されるようであった。この知見は、損傷(外部刺激)に応答しての、植物カルス中に含有される細胞の記述と一致している。植物カルスは、細胞の、クローン体(clonal body)を形成する能力を有する多能性植物幹細胞へのストレス誘導転換から形成される。重大な外部刺激に応答して、成熟し完全に分化した体細胞性哺乳動物細胞から生成される、そのような球状コロニーを、本明細書において動物カルスといい、そのようなコロニーまたはカルス中に含有されるストレス変化細胞を「動物カルス細胞」(ACC)またはSACという。

 

【請求項1】 (カテゴリ:方法)

        細胞をストレスに供する工程を含む、多能性細胞を生成する方法。

         A method to generate a pluripotent cell, comprising subjecting a cell to a stress.

 

>>生物細胞をストレスに晒すだけで多能性細胞を生成できることに、いままで科学者が気づかなかったとは考えにくい。

 

1a)明細書段落【0147】

 実施例1

全ての生物は原始的な生存本能を保有している。植物が重大な外的ストレスに供される と、それらは、細胞の脱分化を引き起こしそして損傷領域または生物全体の再生を可能にする、生存するための機構を活性化させる。そのような機構は下等生物が極度の環境変化を生き延びるために重要であるようであるが、それは哺乳動物においてはまだ立証されていない。

 

EXAMPLE 1

 [00171] All organisms possess a primitive survival instinct. When plants are subjected to significant external stresses they activate a mechanism to survive that causes dedifferentiation of cells and enables regeneration of the injured area or the entire organism. While such mechanisms appear to be essential for lower organisms to survive extreme environmental changes, they have yet to be documented in mammals.

 

1b)明細書段落【0148】

本発明者らは、物理的ストレスが、成熟哺乳動物細胞を、植物および下等生物において見られるものに類似した、幹細胞状態に復帰させ得ると仮定した。この仮説を検討するために、7つの成体体細胞組織から入手した熟細胞を研究した。まず、どの物理的ストレ スが成熟細胞を変化させてより成熟でない状態に復帰させることに最も有効であり得るかに焦点を合わせるために、Oct4-GFPマウスから回収したCD45陽性リンパ球を研究した。このマウス由来の細胞は、幹細胞特異的Oct4プロモーターが活性化される と幹細胞表現型への復帰の読み出し情報(readout)を提供する。成熟し、完全に分化した細胞をいくつかの重大な外部刺激に曝露した。

 

 [00172] The inventors hypothesized that physical stress may cause mature mammalian cells to revert to a stem cell state, similar to that seen in plants and lower organisms. To examine this hypothesis, mature cells procured from seven adult somatic tissues were studied. To first focus on which physical stresses might be most effective in altering mature cells to revert to a less mature state, CD45 positive lymphocytes harvested from Oct4-GFP mice were studied. Cells from these mice provide a readout of reversion to a stem cell phenotype when the stem cell specific Oct4 promoter is activated. The mature, fully differentiated cells were exposed to several significant external stimuli.

 

>>請求項1に記載の「細胞」に植物および下等生物の細胞が含まれるとすると、新規性がない。

   したがって、請求項1に記載の「細胞」には、植物および下等生物の細胞は含まれないと解釈される。

  哺乳類以外の脊椎動物では、どうだろうか?

 

1c)明細書段落【0152】

 諸言

 全ての生物はそれ自体を環境に適応させそしてその身体を再生することによってストレ ス性刺激に関連する損傷を生き延びるための共通の本能を有しているようである。植物において、個体発生は、接合子だけでなく完全に分化した細胞および未成熟の花粉において も観察される。脊椎動物において、イモリはその肢を含むいくつかの解剖学的構造および 器官を再生する能力を有する。植物およびイモリの両方によって示される驚くべき再生 能力が外部刺激によって誘導され、これが以前には完全に分化していた体細胞の細胞性脱分化を引き起こすことに特に留意される。生命の最も初期の形態から何十億年も経過し、 そして様々な生物が特有の方法で進化してきたが、この生存本能は現代の生物の共通の祖先から受け継がれているかもしれない。最終分化した哺乳動物細胞は分化プロセスを逆転 する能力を有しないと通常考えられているが、哺乳動物は強烈な環境変化に応答して死を 回避するための以前には認識されていなかったプログラムを保持しているかもしれない。

 

[00177] All organisms appear to have a common instinct to survive injury related to stressful stimuli by adapting themselves to the environment and regenerating their bodies. In plants, ontogenesis is observed not only in zygotes but also in fully differentiated cells and immature pollen. In vertebrates, newts are capable of regenerating several anatomical structures and organs, including their limbs1. Of particular note is that the remarkable regenerative capacity demonstrated by both plants and newts is induced by external stimuli, which cause cellular dedifferentiation of previously fully differentiated somatic cells. While billions of years have passed from the earliest form of life, and different organisms have evolved in unique ways, this survival instinct may be inherited from a common ancestor to modern-era organisms. Although terminally differentiated mammalian cells are normally believed to be incapable of reversing the differentiation process, mammals may retain a previously unappreciated program to escape death in response to drastic environmental changes.

 

>>イモリの黒焼きを知る人であれば、その再生能力は有史以前から公知であると思うに違いない。

 

>>起案日平成29年 2月23日付け拒絶理由通知書で担当審査官は、

 

 ・引用文献1(国際公開第2011/007900号)において、低酸素条件や低栄養条件等の細胞ストレスへの暴露と、生き残った細胞を回収することを含む多能性幹細胞又は多能性画分を生成・単離する方法が記載され、

  得られた細胞はNanog等の多能性マーカーを発現する点(第41頁第3段落)、同細胞等を薬剤スクリーニングに用い得る点(第29頁最終段落)、同細胞等を再生医療等の治療用途に用い得る点(第30頁第1,2段落)について開示されている。

 ・引用文献2(国際公開第2009/057831)には、体細胞から人工多能性幹細胞を製造する方法であって、Octファミリー遺伝子等を体細胞に導入する工程を含む方法が記載され、得られた細胞は各種多能性マーカーを発現する点、ES細胞と同様にゼラチンコードした組織培養プレートには接着しなかった点([0078])、同細胞等を薬剤スクリーニングに用い得る点([0056]-[0059])、同細胞等を治療用途に用い得る点([0058])について開示されている。

 

  と指摘している。

 

>>平成29年9月7日付け手続補正書で出願人は、

 

【請求項1】  細胞を、低pHストレスに供する工程を含む、Oct4を発現する細胞を含有する細胞塊を生成する方法であって、該低pHが、5.4~5.8のpHであり、且つ、pHの調整がATPを用いて行われることを特徴とする、方法

 

 と補正した。多能性細胞pluripotent cell)はどこに行ってしまったのか・・・。

  (発明の名称は、依然として、多能性細胞のデノボ生成である。 )

 

>>平成29年9月7日付け意見書で出願人は、

 

引用文献1及び2は、当該発明特定事項を何ら開示も示唆もしておりません。 審査官殿は、「細胞ストレスの種類、ストレス曝露期間、用いる細胞種等は、当業者が適宜設定すべき事項である」と指摘されていますが、無数にある細胞ストレスの中から、「Oct4を発現する細胞を含有する細胞塊」を得る目的で、特定pH範囲の低pHストレスを選択し、しかもATPによりpHを調整することに、当業者が容易に想到し得たとは到底考えられません。

 

と反論している。

 

>>また、同意見書で出願人は、実施可能要件およびサポート要件について、

 

このストレス条件(即ち、ATPにより調整された5.4~5.8の低pH ストレス)については、本願の発明の詳細な説明において、Oct4遺伝子を発現する細 胞を含有する細胞塊を生成したことが具体的に示されています(本明細書の段落[0155]~[0164]、[0190]~[0196]等をご参照ください)。従いまして、 本願の発明の詳細な説明は、新請求項1に係る発明を、当業者が実施可能であるといえる程度に明確且つ十分に記載しており、また、新請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものです。

 

と主張している。

 

>>また、同意見書で出願人は、発明の信憑性、再現可能性に関し、

 

 「参考文献の1つとして審査官殿より引用された「11.Hitoshi Niwa, et al.Scienti fic Report,2016年6月,6:28003p.1-9doi: 10.1038/srep28003」には、新請求項1に係る発明が、当業者により再現できた事実が明確に示されています(当該文献のp 2、下から8行目~2行目;p3、上から16行目~23行目及び上から27行目~31 行目;p5、上から1行目~4行目及び下から8行目~5行目、図1等をご参照ください )。具体的には、当該参考文献中のこれらの箇所においては、ATPを用いての低pHストレスを細胞に与えることによって、細胞塊が生成し、且つ当該細胞塊にはOct4遺伝 子が発現している細胞が含まれていたことが端的に記載されています。従いまして、新請求項1に係る発明は、本願明細書の実施例においてだけでなく、当該技術分野において一流誌の1つと認められている学術雑誌に掲載された論文によっても実施可能であることが 実証された発明にほかなりません。

 

と主張している。

 

>>理化学研究所副チームリーダー 丹羽仁史 氏は、2014 12 19 日付けで

 STAP現象の検証結果http://www3.riken.jp/stap/j/r2document1.pdf)において、

 「STAP 現象の確認に至らなかったこと」を報告している。

 

>>平成30年 2月 8日(起案日)の拒絶査定において担当審査官は、

備考欄「特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について>」で

 「ここで、細胞の分化・脱分化誘導においては、Oct4遺伝子は多能性マーカーの1つではあるものの、当該遺伝子の発現のみをもって多能性細胞が生成したということができないことが本願出願時の技術常識である。さらに、その発現レベルについても、例えば、ES細胞等と比較して生物学的に意義のあるレベルで発現することが請求項に規定されているわけでもなく、その発現レベルにかかわらず単にOct4を発現するという性質を有する細胞を含有する細胞塊を生成したというだけでは、細胞を脱分化させて多能性細胞を生成したこと、すなわち、本願発明の課題を解決したことにならないことは、出願時の技術常識に照らし、明らかである。そうすると、発明の詳細な説明には、Oct4を発現する細胞を含有する細胞塊であれば、本願の上記課題を解決できると当業者に認識できる程度に記載されているとはいえない。 」としている。

 

 

 

INTRO

STAP細胞(*1)という馬の又に虫が入り込んだような騒々しさが去ってしまった昨今、

一般には読まれることが少ないと思われる

特表 2015-516812(国際公開WO2013/163296)の

特許請求の範囲を読んでみようという趣向です。

STAP細胞が存在云々の問題は机の引き出しの奥にでも仕舞い込んでおきましょう。

 

なお、原文テキストは、OCR 処理によってテキスト化されており、誤記には一切関知しません。

 

(*1)明細書【0198】 から引用

「本明細書中以下で、低pHのような強い外部刺激による体細胞から多能性細胞への運命転換を「刺激惹 起性多能性獲得(stimulus-triggered acquired pluripotency)」(STAP)といい、 そして得られる細胞をSTAP細胞という。 」